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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年06月04日


今日も昨日と同じ、看護師さんがやって来た。


「失礼します」

「あ、おはようございます」


俺は、軽くお辞儀をした。


「点滴の交換に来ました」

「はい」

「もう、バカなことしちゃダメですよ」

「バカなこと?」


なんとなくわかる。
この人も俺に死ぬなと言うのだろう。

「生きていれば必ず良い事があるのだから……
 私もね、辛い事をいっぱい経験したけれど……
 こうやって生きてるんだから」


看護師さんは、そう言うとニッコリと笑った。
年齢は、40代半ば……

と言ったところだろうか……


「でも、貴方は生きている。
 生きている人間には、死のうとする人の気持ちなんてわかんないですよ」

「……そう?」

看護師さんは、そう言うと自分の腕を見せてくれた。
手首には、無数のためらい傷があった。


「……」


言葉が出なかった。


「貴方は、死ねなかった。
 それは、きっと神様が、こう言っているの。
 『今を生きなさい』って……」


看護師さんは、言葉を続けた。


「死んじゃう人は、何もしなくても死ぬの。
 でも、貴方は死ねなかった。
 何故だかわかる?」

「運がわるかっただけ」



看護師さんは、ニッコリと笑うと俺の腕に点滴をさした。


「痛ッ……」

「なんで痛いかわかる?」


何を言っているのだろう?
俺は、考えてみた。
そして、その答えはすぐに出た。


「看護師さんの腕が悪いから?」


すると看護師さんは、クスリと笑う。


「違うわ。
 生きているからよ」



俺は、何も言えなかった。


「まぁ、そんな冗談がいえるなら心配はないわね」


看護師さんは、そう言うと俺の部屋を出た。


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