この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。
まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]
2012年08月24日
今日は、夏なのに不思議な現象が起きた。
8月の終わりが近づく中……
桜が咲いたのだ。
病院の庭に綺麗な桜が咲いた。
季節外れ、涼しいわけでもない。
みんな桜を見に集まった。
でも、俺はそれどころじゃなかった。
ゆかりさんの赤ちゃんの様態が急変した。
元々大丈夫な状態ではない。
それでも、ゆかりさんの表情は冷静だった。
もうそんなに長くは生きれない。
そんなの俺もゆかりさんも知っている。
でも、出来るだけ傍に居たい。
そう思うのは親としては当たり前の気持ちなのかもしれない。
「看護師さん。
お願いがあるんですけど、この子を外に出しても構いませんか?」
「それは……」
看護師さんは、困った表情を見せる。
「この子の命は、そんなに長くはありません。
“そんなに”と言うのは、もう半日生きれればいい方って意味です。
その意味を理解して言ってますか?」
ゆかりさんの担当医が、真剣な表情でゆかりさんに言う。
「はい。
わかっています。
だけど、この子にも見せてあげたいんです。
この一面の桜の美しさを……」
産まれたばかりの子には視力はない。
そんなこと、俺もゆかりさんもみんなわかっている。
「わかりました……」
ゆかりさんの担当医は、ゆっくりと赤ちゃんを抱き上げる。
そして、ゆかりさんに赤ちゃんを渡す。
「わかる?私ママだよ?」
ゆかりさんが、そう言うと赤ちゃんは小さく泣き声をあげた。
悲しくて泣いている。
そういうんじゃない。
安心して泣いている。
そんな感じがした。
「ごめんね。
寂しかったよね。
こんなのママ失格だね……」
赤ちゃんは、しっかりとゆかりさんの服を握り締める。
「さぁ、桜を見せてあげるんでしょう?」
ゆかりさんの担当医は、そう言うとニッコリと微笑む。
「はい」
ゆかりさんは、赤ちゃんに桜を見せた。
赤ちゃんには、桜は見えていないだろう。
だけど、赤ちゃんは笑った。
ほんの少しだけど赤ちゃんが笑った。
「亜金君、私、赤ちゃんの名前決めた」
「え?」
「万桜……
沢山の桜に祝福されて産まれた赤ちゃん。
そう言う意味を込めて……」
この日の夜、万桜ちゃんは、その小さな息を引き取った。
今日は、夏なのに不思議な現象が起きた。
8月の終わりが近づく中……
桜が咲いたのだ。
病院の庭に綺麗な桜が咲いた。
季節外れ、涼しいわけでもない。
みんな桜を見に集まった。
でも、俺はそれどころじゃなかった。
ゆかりさんの赤ちゃんの様態が急変した。
元々大丈夫な状態ではない。
それでも、ゆかりさんの表情は冷静だった。
もうそんなに長くは生きれない。
そんなの俺もゆかりさんも知っている。
でも、出来るだけ傍に居たい。
そう思うのは親としては当たり前の気持ちなのかもしれない。
「看護師さん。
お願いがあるんですけど、この子を外に出しても構いませんか?」
「それは……」
看護師さんは、困った表情を見せる。
「この子の命は、そんなに長くはありません。
“そんなに”と言うのは、もう半日生きれればいい方って意味です。
その意味を理解して言ってますか?」
ゆかりさんの担当医が、真剣な表情でゆかりさんに言う。
「はい。
わかっています。
だけど、この子にも見せてあげたいんです。
この一面の桜の美しさを……」
産まれたばかりの子には視力はない。
そんなこと、俺もゆかりさんもみんなわかっている。
「わかりました……」
ゆかりさんの担当医は、ゆっくりと赤ちゃんを抱き上げる。
そして、ゆかりさんに赤ちゃんを渡す。
「わかる?私ママだよ?」
ゆかりさんが、そう言うと赤ちゃんは小さく泣き声をあげた。
悲しくて泣いている。
そういうんじゃない。
安心して泣いている。
そんな感じがした。
「ごめんね。
寂しかったよね。
こんなのママ失格だね……」
赤ちゃんは、しっかりとゆかりさんの服を握り締める。
「さぁ、桜を見せてあげるんでしょう?」
ゆかりさんの担当医は、そう言うとニッコリと微笑む。
「はい」
ゆかりさんは、赤ちゃんに桜を見せた。
赤ちゃんには、桜は見えていないだろう。
だけど、赤ちゃんは笑った。
ほんの少しだけど赤ちゃんが笑った。
「亜金君、私、赤ちゃんの名前決めた」
「え?」
「万桜……
沢山の桜に祝福されて産まれた赤ちゃん。
そう言う意味を込めて……」
この日の夜、万桜ちゃんは、その小さな息を引き取った。
コメント 0