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アルファポリス [日記]

とりあえず、アルファポリスに登録してみた。

でも、使い方がわからない。

どうやって小説を書いたらいいのだろう;;

夜に、色々試してみようかな……

まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年07月29日


萌ちゃんが目を覚ました。
それは、俺がたまたまお見舞いに来ている時だった。


「あー。
 亜金君おはよう」


俺は、すぐにナースコールを鳴らした。


「ここ病院のベッドの上っすよ。
 萌さん、覚えてますか?」


太郎が、優しく萌ちゃんの手を握り締める。


「私、もうダメなのかな?」


萌ちゃんが、涙を流しながら呟いた。


「そんなことない!」


太郎は大きな声をあげた。


認めたくなかったのだろう。
認めてしまうと言うことは、萌ちゃんの病気も受け入れなくてはいけないから……
だから、もう一度繰り返した。


「大丈夫!
 大丈夫だから!」


その声は、消え入りそうな声で……
そして、力強かった。


「もういい……
 もういいよ……
 ヤダよ……死にたくない、死にたくないよ!」


萌ちゃんは、大粒の涙を流して叫んだ。


こんな話を聞いた事がある。

人は自分が死ぬとき、その死期を感じてしまうことがある。
恐らく萌ちゃんのこれもその一つなのだろう……


俺は、何を言えばいいのかわからなくなった。

萌ちゃんの叫び声を聞いた銘先生は飛んで病室にやって来た。
その表情は、とても疲れているようだった。

萌ちゃんは、ずっと涙を流していた。
2時間くらい泣いていたと思う。


そして、大きく息を吸い込むとこう言った。


「ねぇ。
 太郎君。
 子供たちに最後の挨拶をしても良い?」


萌ちゃんのその声は、覚悟を決めた声だった。
太郎は、唇をかみしめた。
太郎も覚悟を決めたのだ。


「……わかったっす」


太郎は、無理やり笑顔を作った。

太郎は、涙を拭うと病室を出た。


「銘ちゃん、一君、色々迷惑かけてごめんね……」

「迷惑だなんて思ってないわよ……
 ってか、迷惑だなんて本気で言ったら怒るからね!」


銘先生は、そう言って涙を堪えた。
医者である以上、銘先生は泣けないのかもしれない。


萌ちゃんは、「ありがとう」と言って小さく笑った。


--


暫くの沈黙。


何を言ったらいいのかわからない。
こんな時、色んな事を話せる人間だったら、幾分かマシな人生を過ごせたのではないだろうか?

俺は、そう思い窓の外を眺める。


「ねぇ、亜金君。
 亜金君も早く結婚した方がいいよ」

「え?」

「彼女いるんでしょ?」


一瞬、美穂の事が頭に浮かんだ。
だけど、アイツは俺の彼女ではない。


俺は、軽く息を吸い込み。
そして、ため息をついた。


「まぁ、ぼちぼち頑張るよ」

「うん。
 頑張れ」


萌ちゃんが、力弱く笑った。



病室のドアが、開かれる。


「萌ちゃん!
 千春ちゃんが、遊びに来たよー」


千春ちゃんが、元気な声で現れた。


「びっくりした……
 心臓が止まるかと思ったよ」


萌ちゃんが、目を丸くさせて笑う。
こんな時なのに、俺も何故か楽しくなってしまった。


「えー!
 心臓が止まられると困るなぁー」


千春ちゃんが、笑う。

誰の目から見ても、無理して笑っているのがわかる。
でも、この場を和ませるのには十分だった。


「賑やかっすね。
 なんの話をしてたんっすか?」


太郎が、賑やかな雰囲気の中に現れた。


「秘密」


萌ちゃんが、そう言うと俺達は、笑った。
この感じ……
学生時代を思い出して楽しかった。

--


萌ちゃんの息子である瓜君。
そして、萌ちゃんの娘である桃ちゃん。

その2人が、心配そうに萌ちゃんの方を見ている。


萌ちゃんが、ゆっくり息を吸い込んだ。


「2人に話があるの」


萌ちゃんは、そう言って二人を見た。


「お母さん?」


萌ちゃんは、瓜君の目を見る。


「瓜は、強い子だよね?
 だから、桃のことあまりイジメたらダメだよ。
 強い子は弱い子を護らなくちゃいけないんだから……」

「俺、桃のことちゃんと護る!」


萌ちゃんは、ニッコリと笑うと小指を出した。


「じゃ、ゆびきりだ!」


瓜は、震えながら小指を出した。


「ゆびきりげんまん♪
 嘘ついたらハリセンボンのーます♪
 指切った」


瓜は、ゆびきりを終えると、涙を零しながら部屋の隅っこへ向かった。
そして、座り込み声を出さずに涙を流した。


次に、萌ちゃんは、桃ちゃんの方を見た。


「桃……
 桃には色々苦労をかけてしまうと思う。
 もうちょっと大きくなったとき悩みが出来ると思う。
 その時は、銘ちゃんやちぃちゃんに相談してね。
 銘ちゃん、ちぃちゃん、その時はよろしくね」


銘先生は、頷き。
千春ちゃんは、「任せて!」と力強く言った。


萌ちゃんは、「お願いします」と言って軽く頭を下げた。
そして、萌ちゃんは、言葉を続けた。


「早く、お洗濯やお料理を覚えて太郎君の力になってあげてね」

「うん」


桃ちゃんは、涙を流す事なく。
じっと萌ちゃんの話を真剣に聞いた。


「じゃ、桃もゆびきり」


萌ちゃんは、そう言って小指だけをあげる。

桃ちゃんは、静かに母の元に小指を近づけ自分から歌を歌った。


「指きりげんまん
 嘘ついたらハリセンボンのーます
 指切った♪」


桃ちゃんは、涙を流さなかった。
小さくてもやっぱり女の子。
強いんだなと思った。


桃ちゃんの指が離れると、萌ちゃんは、太郎の方を見てニッコリと笑った。


「太郎君、後の事はお願いね……」

「任せて下さいっす」


太郎は、今にも泣きそうだった。

--

「瓜!桃!
 お父さんの言うことしっかり聞くのよ!」


桃ちゃんは、大きく返事をして、瓜君は涙を拭いて返事をした。


そして、萌ちゃんは、この時初めて子供の目の前で涙を流した。

まだ幼い瓜君や桃ちゃんが、どこまで理解しているかは、俺にはわからない。
だけど、2人は、真剣に萌ちゃんの話を聞いていた。


よく、子供には人の死の現場を見せるのはよくないという人が居る。
でも、この時だけは、決して悪いものではないのではないかと思った。


確かに、元気だった母親の姿を知る子供に、その母親の最後の姿を見せるのは、きつく辛いかも知れない。
だけど、この子たちが、やがて大人になった時、この最後の場面に立ち会わず、後悔しないと言い切れるだろうか?
血の分けた親子なのだ。


子は、親の温もりを……
親は、子の温もりを……
そして、温かい肉声を……


幼い子供にだって、母親の最後の最後まで感じる権利は、あるはずなんだ。

そして、子は命の大事さを学び、親の優しさや、厳しさをこうやって引き継いでいくのではないかと……

俺は、そう感じだ。
そう、思わずにはいられなかった。


そうして、1日が、終わった。

子供達は、別の部屋で休んでいる。

この部屋には、俺と銘先生と太郎だけが残っていた。
萌ちゃんは、静かに眠っている。

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