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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月22日


曇り。
昨日の夜、隼人君の左目の手術が、行われた。
愛ちゃんが亡くなった後、隼人君は清輔さんと希世さんに呼ばれた。
そして、そのあとすぐに隼人君の手術が行われた。
千春ちゃん曰く、愛ちゃんが、自分が亡くなる前に清輔さんと希世さんにお願いしたそうだ。


「私が、死んだら私の目を隼人君にあげて」


それを受け入れた清輔さんと希世さんは凄いと思う。
それを聞いた隼人君は、表情を変えなかった。
喜怒哀楽、そもそも隼人君にはそれが薄い。
声に表情はあるものの。
顔に表情はない。
だから、隼人君が、移植のことを嬉しかったのか悲しかったのかは、わからない。
でも、感謝していると思う。
手術が終わり、隼人君の会話する時間ができた。
相変わらず左目に白い眼帯をしている。


「手術、成功したのかい?」

「そんなのまだ、わからないよ」

「そっか……」

「うん」

「愛ちゃんに感謝しないとね……」

「なんでかな?」

「え?」


隼人君が、うつむく。


「なんで、愛はあんなお願いをしたんだろう……
 僕は、愛の目なんていらなかった……
 愛が、生きてさえいれば……」

「そうだね……
 でも、きっと愛ちゃんは見たかったのだと思う」

「何を……?」

「隼人君の見る世界を……
 きっと愛ちゃんは、隼人君の目になって隼人君と一緒に世界を見たかったんだと思う」

「……僕は、僕の目になってほしくはなかった。
 僕の隣でずっと世界を見てほしかった」

「それが、一番だね……」

「おかしいんだ……
 愛が死んで悲しいのに涙が出ないんだ……」

「まぁ、そんなもんさ。
 悲しいから泣ける。
 そんな器用に生きていけたら人間苦労ないさ……」

「胸が苦しいんだ……
 辛いんだ……
 僕も愛のもとに行きたい……
 僕も死にたい……
 もう、ひとりはいやだ!」


俺は、隼人君の頭の上に軽く手を載せる。


「大丈夫。
 隼人君は、ひとりじゃないよ……」

「え?」


隼人君が目を丸くさせる。


「愛ちゃんが、ずっと隼人君の目になって傍に居る。
 隼人君の中で生きていくんだ。
 だから、『死にたい』なんて言ったらだめだよ」


俺は、そう言ってニッコリと笑う。
作り笑いだけど笑ってみた。

隼人君は、静かに頷いた……


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