SSブログ

小説:余命宣告 [余命宣告]

12月29日


風が冷たい。
でも、太陽の注ぐ光は暖かく。
そして、それは何よりも暖かかった。


今日、愛ちゃんが意識を失った。
血をいっぱい吐いて、そして倒れた。


俺は何も出来なかった。
ただ、その光景をスローモーションで、流れるように脳裏に焼き付いている。
さっきまで、普通に話していた。
元気に、さっきまで話していた。

DSで、バケモンを楽しそうにやっていた。

隼人君も安心しきってバケモンをやっていた。

なのに愛ちゃんは、血をいっぱい吐いて意識を失った。
白血病が、悪化したらしい。
手術は、成功していなかったらしい……

愛ちゃんは、今、集中治療室で、眠っている。
隼人君は、弱弱しく待合室で座っている。
そして、ゆっくりと口を開いた。


「愛……
 僕が、入院した最初の夜。
 僕の部屋に来てくれたんだ……」


昼間なのに静かな待合室。
隼人君の声だけが病室に響いた。


「僕の両親は、僕と妹を巻き込んで心中したんだ……
 僕だけは、たまたま生き残った。
 この左目を代償にね……
 表向きは事故って、なっているんだけどね。
 まぁ、この話はいいや……
 僕の両親は、親戚連中から嫌われていた。
 借金も残していた。
 だから、僕の引き取り先で揉めていたんだ。
 僕は、悔しくて辛くて泣いてしまった……
 その時かな。
 愛が、僕のベットの中に遊びに来てくれてそして耳を塞いでくれたんだ。
 『こうすれば何も聞こえないよ』って……」


隼人君は、静かに涙を流した。
静かな待合室に隼人君の涙声だけが響いた。
隼人君は、本当に辛そうに答えた。

それから、色んな話を聞いた。

愛ちゃんと同じ病気で亡くなった友達の話。
盲腸で入院していたガキ大将の話。
そして、隼人君の家族の話。

普段は、無口な隼人君が沢山話した。
俺は、黙ってその話を聞いた。
話を聞く事しか出来なかった……


そして、物語は明日へと続く

※この物語は、フィクションです。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。