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小説:余命宣告 [余命宣告]

12月31日


今まで、明日があるから今日はやらない。
そんな事を考えていた事があった。
だけど、今は違う。
俺達に、明日があるなんてわからない。
だから、今できる事は、今やらなければいつできるかはわからない。

だから思った。
俺は、今できる事を今やろうと……


愛ちゃんの葬儀には、俺達の他に、少ない親族と隼人君と小太りの男の子の二人が来た。
隼人君は、苦笑いを浮かべるとその男の子も苦笑いを浮かべた。

二人とも今にも泣きそうな顔をしていたけど。
泣かなかった。
とても強いんだなって感じた。


12月31日、13時00分、愛ちゃんを乗せた霊柩車が、クラクションを鳴らして発進した。
いつも思う。
俺は、このクラクションの音が嫌いだ。
なぜなら、このクラクションの音は、まるで亡き人の最後の泣き声に聞こえるからだ。

愛ちゃんは、一生懸命生きた。
短かったけど一生懸命生きた。

愛ちゃんが、意識を取り戻した時、愛ちゃんは、まるでマシンガンのように話していた。
もしかしたら、愛ちゃんは、自分の命が短い事を知っていたのではないでしょうか?

だから、最後の最後に俺達を呼びだして、そして話をしたのではないだろうか?

今では、その答えはわからない。


「ねぇ、亜金君」

「なに?」

「私、亜金君の子供が欲しい」

「What?」


俺は、何故か英語で答えてしまった。


「亜金君の生きた証を私に下さい」

「……俺、長くないよ?
 それに、俺は、はるかさんを幸せにしてあげれるかどうかわからない」

「それでも、欲しいの。
 私が、亜金君の分まで赤ちゃんを幸せにしてみせるから!」

「……」


俺は、なんて言っていいのかわからなかった。
言葉がつまった。


「ダメかな?」


俺が、今できる事と言ったらなんなんだろうか?

それは、何も無いのかもしれない。
だけど、だけど、だけど……
俺だって子供が欲しい。
俺だって生きた証が欲しい。
例え、自分の子供が出来なくても良い。
俺が死んでもはるかさんは、その子供を大切に愛情いっぱいに育ててくれるだろう。
今は、答えはわからない。


ただ、俺が言える事は、ただ一つある。
俺は、まだ生きている。


おわり


※この物語は、フィクションです。
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小説:余命宣告 [余命宣告]

12月30日


昨日の夜。
愛ちゃんは、息を引き取った。
その死に際に俺達は、なんとか立ち会う事が出来た。

意識不明の人が、死ぬ前に、少しだけ意識を取り戻す事があるそうです。
意識を取り戻した時、俺達も愛ちゃんの家族も、少し安心していました。
だけど、周りの医師や看護師さん達は、違いました。


「愛ちゃんの話を聞いてあげてください」


千春さんが、涙声で言いました。
俺は、頷き愛ちゃんの話を聞きました。


「私ね。
 病気が治ったら、隼人君とデートしたいな。
 お花畑に行って、私が隼人君の為に、お花の冠を作ってあげるの。
 朝も早起きして、お弁当作って……
 私、卵焼きしか作れないから、ママにも少し手伝ってもらうの……
 ねぇ、隼人君、私の作った卵焼き美味しい?」


愛ちゃんは、そう言って隼人君の方を見た。

隼人君は、ニッコリと笑い頷いた。


「美味しいよ」

「ホント?
 よかった……」

「……ねぇ、隼人君」

「うん?」

「大きくなったら、私をお嫁さんに貰ってください」

「バカだな……」

「え?」

「プロポーズは、男の方からするものだろ?」

「あははは……」


愛ちゃんは、切なそうに笑った。


「愛」

「なぁに?
 隼人君」

「僕のお嫁さんになってください」


隼人君は、そう言って愛ちゃんの手を握り締めた。


「はい。
 私をお嫁さんにしてください」


愛ちゃんは、顔を赤くして答えた。


「これ、指輪……
 今は、おもちゃだけど大きくなったら本物を買うから……」


隼人君は、愛ちゃんの指に指輪をはめた。


「えへへ……
 ありがとう」

「うん」

「えへへ……
 隼人君」

「どうした?」

「隼人君。
 大好き……」

「……僕もだよ」

「……」


愛ちゃんは、隼人君の言葉に幸せそうに笑うと、そのまま息を引き取った。
隼人君は、その場で静かに涙を流した。
隼人君だけじゃなく、その場に居る全ての人が涙を流した。



明日へと続く

※この物語は、フィクションです。
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小説:余命宣告 [余命宣告]

12月29日


風が冷たい。
でも、太陽の注ぐ光は暖かく。
そして、それは何よりも暖かかった。


今日、愛ちゃんが意識を失った。
血をいっぱい吐いて、そして倒れた。


俺は何も出来なかった。
ただ、その光景をスローモーションで、流れるように脳裏に焼き付いている。
さっきまで、普通に話していた。
元気に、さっきまで話していた。

DSで、バケモンを楽しそうにやっていた。

隼人君も安心しきってバケモンをやっていた。

なのに愛ちゃんは、血をいっぱい吐いて意識を失った。
白血病が、悪化したらしい。
手術は、成功していなかったらしい……

愛ちゃんは、今、集中治療室で、眠っている。
隼人君は、弱弱しく待合室で座っている。
そして、ゆっくりと口を開いた。


「愛……
 僕が、入院した最初の夜。
 僕の部屋に来てくれたんだ……」


昼間なのに静かな待合室。
隼人君の声だけが病室に響いた。


「僕の両親は、僕と妹を巻き込んで心中したんだ……
 僕だけは、たまたま生き残った。
 この左目を代償にね……
 表向きは事故って、なっているんだけどね。
 まぁ、この話はいいや……
 僕の両親は、親戚連中から嫌われていた。
 借金も残していた。
 だから、僕の引き取り先で揉めていたんだ。
 僕は、悔しくて辛くて泣いてしまった……
 その時かな。
 愛が、僕のベットの中に遊びに来てくれてそして耳を塞いでくれたんだ。
 『こうすれば何も聞こえないよ』って……」


隼人君は、静かに涙を流した。
静かな待合室に隼人君の涙声だけが響いた。
隼人君は、本当に辛そうに答えた。

それから、色んな話を聞いた。

愛ちゃんと同じ病気で亡くなった友達の話。
盲腸で入院していたガキ大将の話。
そして、隼人君の家族の話。

普段は、無口な隼人君が沢山話した。
俺は、黙ってその話を聞いた。
話を聞く事しか出来なかった……


そして、物語は明日へと続く

※この物語は、フィクションです。
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小説:余命宣告 [余命宣告]

12月28日


今日から正月休み。
だけど、色んな事があり心が疲れている様子。
モンハン尽くしの予定だったけれど……
そんな気分には、とてもなれません。

はぁ。

俺って、誰かを幸せにする事って、出来るのでしょうか?
ずっと、ずっと、それが気になって仕方がありません。

俺は、はるかさんの事が好きなんだと思う。
いや、好きだ。
昨日の一件に関しては、はるかさんは、悪くない。
誰も悪くないんだ。

恋愛に疲れて自殺しちゃう子は、沢山います。
美奈もその中の1人だったんだ……


それは、恋愛で傷ついた子の心が弱かった訳じゃない。


ただ、タイミングが悪かったんだ……


はるかさんは、昨日の夜から泣きっぱなし。
俺は、余計な事を聞いてしまったのかもしれない。
だけど、どうしても聞かずには居られなかったんだ。
俺は、死ぬ前に俺の中で決着をつけなければいけない事がある。
俺は、そう思い、病院に無断で外出をした。

そして、美奈の墓前へと向かった。

花が添えられている。
まだ、新しい

俺達には、親戚など居ない。
はるかさんも、昨日から俺の病室に居る。
だから、誰が備えたのかはすぐに分かった。


「あ……」


声がした。
声の方を振り向くと、そこには男の人が居た。
美奈の元の彼氏。
杉山大輔だ……

杉山君は、俺の姿を見るなり頭を下げた。


「すみませんでした!」

「……謝っても君のした事は、美奈は許さないだろう」

「それでも、謝っておきたいんです!
 その後、彼女とも別れました」

「……そう言う問題じゃない」

「俺には、こうやって償うことしかできません」

「償う必要なんて何も無い」

「でも!」

「君は、幸せになるんだ」


そう、生きている人には、幸せになる権利がある。
生きている人は、幸せにならなければいけない義務がある。

俺は、そうはるかさんに教わったんだ。
俺も幸せになっても良い……
それなのなら、この目の前の男も幸せになってもいいのではないだろうか?

彼は、毎日墓に来てくれているらしい。
美奈は、きっと喜んでいるだろう。


俺は、無言でその場を去った。
長くいれば、あの男を殴ってしまうかもしれない。
俺の中では、やっぱりアイツは憎い存在だから……


病室に戻るとはるかさんに怒られた。
心配かけすぎたかな??
はるかさん、ごめんなさい。



では、明日へ続きます。

※この物語は、フィクションです。

小説:余命宣告 [余命宣告]

12月27日


「ねぇ。
 はるかさん」


俺は、はるかさんにどうしても聞きたい事があった。


「なぁに?
 亜金君」

「はるかさんは、どうして俺を助けたの?」

「……前に話したじゃん。
 亜金君のお父さんとお母さんが、自殺したのは私にも原因があるって……」

「俺の父さんと母さんが亡くなったのは、妹が自殺したのが、原因なんだよ」

「……」


はるかさんは、じっと俺の顔を見た。


「その妹さんの自殺……
 うんん。
 美奈の自殺、止められなかったのは私なんだ……」

「どういうこと?」


はるかさんは、ゆっくりと口を開いた。


「ずっと美奈から相談を受けていたの。
 美奈の彼氏の事、そして美奈の彼氏を寝取った友達の事も知ってるの」

「……」


俺は、黙ってはるかさんの話を聞いた。


「美奈は、ずっと泣いていたの。
 美奈が自殺する寸前、私の所にメールが来たの。
 『今から死にます。
  お兄ちゃんの事をよろしく』って……
 私、その時、仕事が忙しくて、美奈に構ってあげる事が出来なかった。
 もしも、あの時、私が、美奈の所に駆けつけていれば、美奈は死ななくて済んだかもしれないの!」


はるかさんは、そう言って涙を流した。
俺は、ゆっくりとはるかさんの体を抱きしめた。


「はるかさんは、悪くない」


ただ、一言だけ俺は言いました。
他の言葉なんて浮かばない。
なんて言ったらいいかわからない。

俺は、ただはるかさんの体を抱きしめる事しか出来なかった。



では、明日へ続きます。

※この物語は、フィクションです。
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