SSブログ

まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年07月03日


今日も病院を抜け出し萌ちゃんの喫茶店に向かう。
すると臨時休業の札をだしていた。

休みなのか……

帰ろうとすると聞き覚えのある声に呼び止められる。


「コラ、亜金さん!」

「あ……
 千春ちゃん?」


俺は、思わず逃げようとする。


「コラ!逃げたらダメ!走ってもダメ!」


千春ちゃんが、そう言って俺の腕を掴む。


「ご、ごめんなさい」

「病室にいないから、散歩でもしてるのかと思ったら、まさか病室を散歩していたなんて……」


千春ちゃんが、ため息をつく。


「はい。ごめんなさい」

「はぁ……
 とりあえず病院に帰りましょう」

「はい……」


俺は、千春ちゃんに引っ張られながら病院へ戻った。

すると待合室で、沈んだ顔の萌ちゃんと逢った。


「あれ?
 萌ちゃん、どうしたの?」

「あ……一君」


萌ちゃんは、今にも泣きそうな顔で俺の方を見た。
嫌な予感がした。


「どうしたの?」


俺は、もう一度訪ねた。


「私、乳がんなんだって……」

「え?」


「今、太郎君が、私の病状について説明を受けてるの……
 私、もう長くないかもしれない……」


萌ちゃんは、元気なさげに呟いた。


「大丈夫だよ。
 太郎は、きっと簡単な説明を受けているだけだから……」

「でも、入院するんだよ?」

「じゃ、入院の説明をしてるんだよ……」

「そっかな?」

「ああ。
 きっと大丈夫」


俺は、そう言ってあげることしかできなかった。
千春ちゃんの表情も暗い。
でも、そう言う顔を俺までしてしまったら、萌ちゃんまで傷つけるかもしれない。
だから、俺は、無理にでも笑って見せた。
それで、彼女の不安が消えるのなら安いモノだから……

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。