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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月20日


今日は、美穂と一緒に、隼人君を連れて美穂の知り合いの服のデザイナーさんの所に行った。
本当は、愛ちゃんも連れていきたかったんだけどそれは、許可が下りなかった。
それだけ、愛ちゃんの様態が良くないってこと。

それを実感する。


デザイナーさんの所に行き隼人君のウェディングスーツ。
愛ちゃんのウェディングドレスを用意してもらうことになった。


デザイナーさんは、事情を話すと急ピッチで作ってくれるらしい。
服ができるのは、明日……

隼人君のは、そんなに時間がかからないけど……
愛ちゃんのドレスは、少し時間がかかるらしいけど他の仕事を後回しにしてまでやってくれると言ってくれた。
凄くかわいいドレスを作ってくれるそうだ。

俺は、心の底から「ありがとう」と言う言葉が出た。
ついでに、涙も出そうになったけど、そこは堪えた。


「帰りは、喫茶萌萌で、何か食べていこうか?」


美穂の提案に俺は頷いた。
喫茶萌萌の中に入った後も、やっぱり隼人君は、元気がない。


「あまり自分を責めない方がいいよ」


俺は、隼人君にそういった。
だけど、責めてしまうだろう。
俺だって同じた地場だったら自分を責めていただろう。


「でも、僕が愛を連れ出さなかったら……」

「そうだね。
 愛ちゃんの顔を見ただろう?
 凄く幸せそうだったよ」

「でも、僕はまだ、愛に死んで欲しくない……」

「残酷なようだけど、愛ちゃんは遅かれ早かれそう長くなかった……
 愛ちゃんの身内のお爺さんやお婆さんでさえ、隼人君には感謝していたんだよ。
 『愛ちゃんのあんな笑顔、久しぶりに見た』って……」


隼人君は、うつむいたまま言葉は出さない。
美穂が、優しい口調で隼人君に言う。

--


「愛ちゃん、結婚式を楽しみにしてると思うなぁ。
 なのに新郎さんが、そんな顔をしてたんじゃ愛ちゃん幸せになれないよ?」

「幸せって何?
 生きることじゃないの?」

「そうだよ」

「だったら、もうすぐ死ぬ愛のことを幸せになんて……」

「愛ちゃんは、生きているよ?
 少なくても今は、生きている。
 死んだ後のことなんて考えないで、今生きている愛ちゃんのことを考えて」


うん。
子供嫌いな美穂。
でも、子供のことを一生懸命考えているこの美穂。
この美穂は、やっぱり俺の知っている美穂じゃないんだな。
きっとこの子は……

いや、やっぱり今はこのことを考えるのはやめよう。
今は、隼人君と愛ちゃんのことだけを考えよう。


「ほら、亜金!
 何かいいことを言って!」

「いいこと?」

「そう、亜金の格言を言って!」

「急にそんなことを言われてもな……
 そうだな……
 『今できることは明日もできるとは限らない!』かな」

「ほうほう。
 亜金にしては、わかりやすいこと言ったね」

「うん。
 この病院に来て、気づいたことなんだ。
 今はできても、明日は死んでいるかもしれない。
 だから、できることはやってしまおうって……」

「亜金、二重丸!」


美穂は、そう言って俺の頭を撫でてくれた。
なんか、恥ずかしかった。

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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月19日


月曜日。

愛ちゃんの様態が急変したのが、昨日の夜。

小児病棟の方が騒がしいので、美穂と覗きに行ったら愛ちゃんが個室に運ばれるのを見た。

今は、少し落ち着いている。

なので、少しの間だけ面会を許された。
俺と美穂は、愛ちゃんの病室に訪れる。


「愛ちゃん……
 大丈夫?」


美穂が、心配そうに愛ちゃんに尋ねる。


「美穂さん、大丈夫だよ」

「そう、よかった」

「でもね。
 私、わかるんだ……」

「わかるって何が?」

「私、もうすぐ死ぬんでしょ?」

「え……?」


美穂と俺は言葉を失う。
そう、もうすぐ愛ちゃんのその命は消える。
それは、銘先生から教えてもらった。


「やっぱりそうなんだ……」


愛ちゃんが、辛そうな表情を見せる。


「なにかやりたいことはない?」


もう、知っているのなら悔いのない最後の人生を愛ちゃんには送ってほしい。
俺は、意を決して愛ちゃんに尋ねる。


「私ね、お嫁さんになりたい」


俺と美穂は、顔を合わせた。
そして、頷く。


「わかった」


俺は、頷いた。


「ちと隼人君を男にしてくる!」


俺は、愛ちゃんの病室を出た。
そして、小児病棟に向かい隼人君の前に立つ。


「隼人君!
 男になってこい!」

「え?」

「愛ちゃん、危ないのはわかっているだろう?
 だから、隼人君、愛ちゃんの願いを聞いてやってくれ」

「でも、僕は愛に酷いことを……」

「隼人君は、酷いことなんてしていないよ。
 愛ちゃんの為にしたことなんだろう?」

「うん」

「だから、愛ちゃんと結婚して!」

「結婚って、男は18歳にならないとできないんだよ?」

「式をあげるんだ……」


隼人君が、静かに頷く。


「それが、愛の為になるのなら、僕は愛の為になんでもする!」


隼人君の決断は、早かった。


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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月18日


晴れた日曜日。

今日の朝、隼人君が愛ちゃんを背負って帰ってきた。

愛ちゃんの様態は最悪だった。
辛うじて意識を保っていた……


それを病院の外で見つけたのは俺だった。


「隼人君が、愛ちゃんを連れ出したのかい?」

「……うん」

「どうして!?」


俺が、怒鳴ろうとしたとき美穂が、俺の手をぎゅっと握った。
美穂は、愛ちゃんの方を見ている。


愛ちゃんの表情が明るい。


「昨日、徹夜で星を見たんだよ……
 でも、雨で全然見れなかった……」

「そっか……
 残念だったね」


美穂が、隼人君の目線に合わせて話す。


「うん」


隼人君の表情は、今にも泣きそうだ。


「はぁ……
 疲れただろう?
 とりあえず、病院の中に入るぞ」

「うん」


俺は、愛ちゃんを抱きかかえると美穂と隼人君と一緒に病院の中に入った。


「隼人君!愛ちゃんも!」


千晴ちゃんが、心配そうに駆け寄ってきた。
そして、そのまま愛ちゃんを愛ちゃんの病室に連れて行った。


愛ちゃんの祖父母も病室にいた。


隼人君は、深々と頭を下げて誤った。


「ごめんなさい……」


しかし、愛ちゃんの清輔さんもも希世さんも怒らなかった。
それは、愛ちゃんの表情を見れば怒る気も失せるだろう。
愛ちゃんの表情は、物凄く明るく嬉しそうで幸せそうだった。


「隼人君……
 ありがとうね」


希世さんが、そう言って隼人君を抱きしめる。


「え?
 愛ちゃんのこんな顔、久しぶりに見たよ」


清輔さんが、そう言ってニッコリ笑った。


「お爺ちゃん、お婆ちゃん。
 あのね昨日の夜、隼人君と徹夜で星を見たんだよ。
 でも、雨でずっと見れなかったんだー」

「そうか……
 疲れただろう、2人とも今日は休みなさい……」


愛ちゃんの笑顔を見た清輔さんがそう言ってベッドに横になる愛ちゃんの頭をなでた。


「うん!おやすみなさい」


愛ちゃんは、そう言って静かに眠りについた。


「隼人君も眠りな」


俺は、そう言って隼人君を病室まで連れて行った。
とりあえず、2人とも無事でよかった。

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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月17日


土曜日の雨。


今日は、雨。


降り注ぐ雨は、空気の温度を下げ肌を寒くさせる。

今日、愛ちゃんが期待していたしし座流星群は、これでは見れない。
残念だろうな……

なので、少し様子を見に愛ちゃんの部屋に向かった。
するとそこには、愛ちゃんはいない。

まさか、何かあったのかな?

暫く待ったけど、帰ってこない。

俺は、受付付近にいた千春ちゃんを見つけ、尋ねてみた。


「愛ちゃん、何かあったのですか?」

「え?」

「愛ちゃん、部屋にいないんだけど……」

「トイレかな?」


千春ちゃんは、そう言った後、俺と一緒に愛ちゃんの部屋に向かった。


「ホントだ。
 いないね……」


千春ちゃんは、そう言って顔を青くさせる。


「うん。
 なんかあったんじゃないかと思って尋ねたんだけど……」

「なんにもないはず……
 でも、いないね。
 ちょっと探してみる」


千春ちゃんは、看護士仲間数人に声をかけた。


「俺もちょっと探してみる」

「うん」


俺は、とりあえず小児病棟の方に向かった。
そこには、知らない顔ばかりだった。

隼人君もいない。


俺は、子供たちに勇気を出して聞いてみた。


「なぁ、誰か、隼人君を知らないかい?」

「えっとねー。
 愛ちゃんと星が見える場所に行くって言ってたよー」

「え?
 星?」

「雨だよ……?
 それにまだ昼なのに……」

「変だよねー」

「そうだね。
 ありがとう!」


俺は、すぐに千春ちゃんを含めた看護士さんたちにそのことを伝えた。
病院の中を看護士さんは、探したけれど見つからなかったらしい。

考えれる場所は、外……

隼人君、愛ちゃん……
何処に行ったんだ?

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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月16日


金曜日。

愛ちゃんの様態は、依然よくない。

美穂が、早退し昼前に帰ってきた。


「亜金、ヌーボを買って来たよー」


美穂は、そう言って小さなピンクの瓶を鞄から出した。


「こんな時に、お酒は飲めないよ」

「うん。
 今は、冷蔵庫に入れて今度飲もう!」


美穂は、そう言ってボジョレーヌーボを冷蔵庫に入れた。


「それに、俺はお酒は飲めないんだ」

「ボジョレーは、別格!
 きっと美味しいよ。
 今年のボジョレーは、フルーティーなんだって!」

「そっか……」


俺は、いまいち美穂の考えがわからない。


「愛ちゃん、元気になるといいね」

「うん」

「美穂は、元気だな」

「そう?」

「俺は、ここに来ていろんな人の死に直面して結構凹んでいる。
 なのに、美穂は、その時は、涙を流しているけどそれ以降は元気だ。
 無理してないか?」

「私は、無理なんかしてないよ」

「そうか……」

「亜金、死なないでね」

「え?」

「みんなが亡くなった時、亜金は悲しいって思ったのでしょう?
 それは、亜金が死んだとき、みんなも悲しむってことなの」

「……そうか。
 そうだな……」


この美穂と出会ったとき、「死ぬな」を連発していた。
その意味が今、わかった気がする……


「うん!」


美穂の優しい笑顔が、俺の心を突き刺す。

「そうだな。
 もう、俺は自分から死のうとは思わないよ」

「うん。
 偉いぞ!」


美穂は、俺の体をぎゅっと抱きしめる。


「な、なに?」

「抱きしめるのに理由って必要?」

「そこは、ある程度は必要だと思うけど……」

「私が亜金のこと好きだから……
 って、理由ではダメ?」

「ダメじゃないけど……」

「なら、いいじゃん」


美穂が、耳元でクスクスと笑う。
少しくすぐったかった。


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