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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月25日


晴れ。
いい天気だ。

いい天気の日。
隼人君の眼帯が外された。

愛ちゃんの茶色い目が、隼人君の目になっていた。
隼人君の右目は黒い。

いわゆるオッドアイと言うやつだ……


「このろうそくの火が、見える?」


銘先生が、優しく言う。
薄暗い部屋……
そこにろうそくが一本立っている。


静かな部屋、隼人君はゆっくりと頷く。


「見えるよ。
 視界が広がった感じ……」

「そう……
 手術は、成功したみたいね」

「うん」

「ふぅ……
 なんか、緊張した……」


美穂が、ため息をつく。


「なんで、美穂が緊張するんだよ……?」

「なんでって……
 うーん。なんでだろ?」


美穂が、笑ってごまかす。


「まぁ、それは置いておいて隼人君。
 少し難しい話をするけどいいかな?」


銘先生が、真面目な顔をして隼人君の方を見る。


「うん」


隼人君が、真剣な表情で頷く。


「隼人君の病状は、もう安定しているの。
 だから、隼人君は退院しなければいけない」

「うん」

「でも、隼人君の親戚は、みんな隼人君の受け入れを拒否している」

「うん、知ってる」

「そう……
 なら、話は早いね。
 隼人君は、施設に入ることになったわ」

「そっか……」

「ちょっと待って!」


美穂が、横から口を出す。


「美穂さん、何?」

「そんなの今はなさなくてもいいじゃない?」

「話せるときに話しておかないと……」

「そうだけど……」

「遅かれ早かれいずれは病院を出なくちゃいけないの。
 病院も慈善事業でやっている訳じゃないからね……」

「だったら私が……」


美穂が、そこまで言ったところで言葉を止めた。
そう他人であるはずの美穂が引き取れるわけがない……
残酷だけど仕方がないのだ……

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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月24日


空は曇り、心は曇天。
愛ちゃんが亡くなってからと隼人君の元気がない。

明日、隼人君は眼帯を取るらしい。

ベッドの上でずっと蹲っている。


辛いのはわかる。
悲しいのはわかる。


でも、そこまでわかっているのに何を言ってあげればいいのかがわからない。


「はぁ……」


俺は、ため息をつく。


「亜金、ため息なんかついてどうしたの?」

「隼人君、自分のベッドから出てこないそうだ」

「うん。
 それは、聞いた」

「どうにかして救ってあげることはできないかなと思って……」

「時間が解決してくれるんじゃないかな?」

「それって、忘れるってことでしょ?」

「そうなるね」

「時間の解決ほど残酷なものはないような気もする」

「そっかな?
 人は生きる過程で誰かを失う。
 それに一つずつ反応していたら、心が幾つあっても足りないよ。
 時には忘れることも必要だと思う」

「そうだね……
 でも、忘れるのって怖いぞ?」

「うん。
 でもね、死のうとした亜金にも亜金が死んだら悲しむ人がいるってことは、忘れちゃだめだよ?」

「えー。
 話をすり替えないでよ」

「でも、そうでもしないと亜金は、再び死のうとするでしょ?」

「しないよ」

「本当に?」

「うん。
 命の大事さとか、ここに来てわかったしね……」

「ならいいけど……
 亜金にはずっと生きていてほしいんだ」

「うん。
 あと60年は生きるよ」

「うん。
 私は、あと61年生きる」

「え?」

「亜金が、死ぬとき淋しくないようにずっとそばに居てあげるね。
 それで、亜金が死んだあと淋しくないようにすぐに逝く……
 天国に行ったら、亜金が私を迎え入れてよね。
 パーティーの準備をしててね」

「何のパーティー?」

「天国誕生日?」

「意味わかんないや」


俺は、思わず笑った。


「亜金のホントの笑顔、久しぶりに見た。
 その笑顔忘れちゃダメだよ」


そう言う、美穂も元気がない。
美穂も愛ちゃんの死に相当ショックを受けたんだろうな。


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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月23日


金曜日。
雨……。

今日、愛ちゃんのお葬式が行われた。
左目には隼人君とお揃いの眼帯が、つけられていた。


隼人君は、何も語らない。
元太君や瓜君が、話しかけても何も答えない。
桃ちゃんは、泣いている。


「なんだか、辛いね……」


美穂が、そう言う。


「そうだね……」

「淋しいね……」

「うん」


美穂も、あまり話さない。
愛ちゃんも小さいころから病院に居たため、病院以外での友達は、いなかったらしい。
ご両親は、愛ちゃんが赤ちゃんのころ、愛ちゃんを清輔さんに預けてどこかに行ったらしい。
その後の行方は、わかっていない。
今日の葬儀にも顔さえ出していない。


きっと愛ちゃんが亡くなったことさえ知らないのだろう。
きっと愛ちゃんが病気であったことさえも知らないのだろう。


そう考えると少しやるせない。


泣かない隼人君と泣き虫だった愛ちゃん。

2人の関係は、どんなものだったのか……
それは、わからない。


隼人君のこともまだほとんど知らない。
ただ愛ちゃんと隼人君の共通点は、両親がいないこと。

隼人君の場合は、無理心中して隼人君だけ生き残ったらしい。
それは、ずっと前に千春ちゃんから聞いたことがある。

きっと似た者同士の2人は、惹かれあうものがあったのだろう。
愛ちゃんを乗せた霊柩車が、火葬場へと向かった。
いつも思う。
いつも切なく思う。


霊柩車が、発射するときのクラクションの音が……。
愛ちゃんが、元気な時に使っていたお茶碗を割る瞬間。


俺の心の中に雨が降る。


泣きたくなるほど窮屈になる。


生きるとは何か?
死ぬとは何か?

俺の心に何を訴えたいのか?
俺には、それはわからない。

でも、この病院に来て思う。
自ら死ぬということは、亡くなった人に対しての冒涜なのかも知れない……


だけど、俺は改めて思う。
生きるって難しい。
だから、人は死にたくなる。

でも、死んだ先にあるものは何か?

それは、悲しみと生きている間に何かできなかったのかと言う罪悪感のみ……
俺は、まだ少し生きるけど。
愛ちゃん、見守っていてね。


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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月22日


曇り。
昨日の夜、隼人君の左目の手術が、行われた。
愛ちゃんが亡くなった後、隼人君は清輔さんと希世さんに呼ばれた。
そして、そのあとすぐに隼人君の手術が行われた。
千春ちゃん曰く、愛ちゃんが、自分が亡くなる前に清輔さんと希世さんにお願いしたそうだ。


「私が、死んだら私の目を隼人君にあげて」


それを受け入れた清輔さんと希世さんは凄いと思う。
それを聞いた隼人君は、表情を変えなかった。
喜怒哀楽、そもそも隼人君にはそれが薄い。
声に表情はあるものの。
顔に表情はない。
だから、隼人君が、移植のことを嬉しかったのか悲しかったのかは、わからない。
でも、感謝していると思う。
手術が終わり、隼人君の会話する時間ができた。
相変わらず左目に白い眼帯をしている。


「手術、成功したのかい?」

「そんなのまだ、わからないよ」

「そっか……」

「うん」

「愛ちゃんに感謝しないとね……」

「なんでかな?」

「え?」


隼人君が、うつむく。


「なんで、愛はあんなお願いをしたんだろう……
 僕は、愛の目なんていらなかった……
 愛が、生きてさえいれば……」

「そうだね……
 でも、きっと愛ちゃんは見たかったのだと思う」

「何を……?」

「隼人君の見る世界を……
 きっと愛ちゃんは、隼人君の目になって隼人君と一緒に世界を見たかったんだと思う」

「……僕は、僕の目になってほしくはなかった。
 僕の隣でずっと世界を見てほしかった」

「それが、一番だね……」

「おかしいんだ……
 愛が死んで悲しいのに涙が出ないんだ……」

「まぁ、そんなもんさ。
 悲しいから泣ける。
 そんな器用に生きていけたら人間苦労ないさ……」

「胸が苦しいんだ……
 辛いんだ……
 僕も愛のもとに行きたい……
 僕も死にたい……
 もう、ひとりはいやだ!」


俺は、隼人君の頭の上に軽く手を載せる。


「大丈夫。
 隼人君は、ひとりじゃないよ……」

「え?」


隼人君が目を丸くさせる。


「愛ちゃんが、ずっと隼人君の目になって傍に居る。
 隼人君の中で生きていくんだ。
 だから、『死にたい』なんて言ったらだめだよ」


俺は、そう言ってニッコリと笑う。
作り笑いだけど笑ってみた。

隼人君は、静かに頷いた……


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まっしろなティスタメント(小説) [まっしろなティスタメント]

2012年11月21日


今日、愛ちゃんの朝、ウェディングドレスが仕上がり……
そのドレスは、愛ちゃんにプレゼントした。
ドレスはピッタリと愛ちゃんの体のサイズに会っていた。


「綺麗だよ……」


隼人君が、照れ笑いを浮かべながら愛ちゃんに言う。
愛ちゃんも恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。


「隼人君もスーツ似あってるよ」

「ありがとう……」


準備は、整った。
愛ちゃんはベッドの上でドレスを着て、その隣で隼人君が立つ。
千春ちゃんや千代田さんを含めた看護士さんたち。
元太君や瓜君に桃ちゃんを含めた子供たち。
清輔さんや希世さん。
そして、美穂に見守られながら結婚式が、始まった。

俺は、なぜだか神父役をやることになった。
静かな音楽が流れる中、俺は、美穂が用意した聖書と言う名のカンニングペーパーを持って隼人君に尋ねる。


「汝隼人は、この女、愛を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」


隼人君が、そう言う答える。
俺は、愛ちゃんに尋ねる。

「汝愛は、この男、隼人を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


愛ちゃんが、嬉しそうに答える。


「私、愛は、この男、隼人を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓います」


愛ちゃん、頑張って覚えたんだね……


「では、誓いの口づけを……」


と俺は、ここまで言って言葉を止める。
子供にキスは、早すぎるんじゃないかな?
俺だってキスなんて……
でも、隼人君は、愛ちゃんの唇にキスをした。
ほんの一瞬だけどキスをした。


--


「隼人君……」


愛ちゃんは、顔を真っ赤にして笑った。
愛ちゃんの顔は、幸せそうだった。
でも、その表情はどこか苦しげで、機械音が鳴り響く。


銘先生が、静かに愛ちゃんの脈を図り様子を見る。
それでも、愛ちゃんは隼人君と会話を続ける。
苦しそうに辛そうに、でも幸せそうだった。
愛ちゃんが、精いっぱいの笑顔を作る。


「隼人君……」

「どうした?愛……」

「大好きだよ」


愛ちゃんは、そう言ったあと、静かに息をするのを止めた。

現実は辛く、そして残酷だ……
その場にいた、みんなが涙をこらえる。
だって、あんな愛ちゃんの表情を見たら、涙を流すわけにはいかなかった。


暫くは、2人だけにしてあげようとことで、俺たちは静かに部屋を出た。
愛ちゃんが今日1日持つかどうかわからない。
それは、その場にいたみんながわかっていた。
でも、辛かった。

ねぇ、神様。
どうして死にたかった俺が、生き延びて……
生きたかった愛ちゃんが死ななくちゃいけないんだろう?


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