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ピノの旅(小説) [ピノの旅]

2013年04月04日


静かなる館。
ピノが、舞う桜を捕まえては、俺に見せる。
俺は、その度にピノの頭を撫でる。

館にある本は読みつくした。
なので、俺は暇で暇で仕方がない。


「あきーん。
 桜綺麗だよー」


ピノが、俺に手を振る。
俺は、苦笑いを浮かべて手を振り返す。


「亜金。
 ちょっと話がある」


清空さんが、俺の隣に座る。


「清空さん、来てたんですね」

「ああ。
 白銀は、プレゲトンと一緒にケーキを焼いてる」

「そうですか……」


俺は、視線をゆっくりと清空さんに移す。


「亜金とも12年だな」

「……うん。
 俺にとって清空さんは、お母さんだね。
 館に預けられてからだもんね……」

「ああ……」

「……うん」

「外の世界が見たいか?」

「え?」

「プレゲトンから聞いている。
 ピノに外の世界を見せてあげたいんだろう?」

「……うん」


俺は、小さくうなずく。
すると清空さんが、俺の頭を優しく撫でる。


「いいと思うぞ」

「え?」

「外の世界、見てこい!
 んで、必ずここに戻ってこい!と言っても私も館を開けることが多いがな」


清空さんが、そう言って笑う。


「ホントに良いの?」

「ああ……!」

「ピノ!旅に出れることになったぞ!」


俺は、大きな声でピノの元へ走った。


「旅?
 旅ってなーに?」

「冒険だよ!
 色んな世界を見れるぞ!
 ピノは、何か見たいモノある?」

「うん!
 ピノ、蝶々が見たい!」

「蝶々?」

「うん!小さくて、可愛くて!
 ヒラヒラしてるの!」


ピノは、嬉しそうにはしゃいだ。

「蝶々か……
 春の町だね、それならここからそれほど遠くない」

「よし!
 じゃ、行ってこい!」


清空さんが、そう言って俺とピノの頭を撫でた。
さぁ、冒険が始まるぞ……
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ピノの旅(小説) [ピノの旅]

――4月3日


今日、笹鈴さんと座来栖君が、俺の屋敷を尋ねてきた。


「あ、笹鈴さんに座来栖君どうしたの?」


俺は、遊びに来てくれたのかと思い嬉しくて心の中でははしゃぎながら、館に招いた。
俺にとって友達が、館に客人として来てくれるのは産まれて初めてだったから……


「あのね、亜金ちゃ」


笹鈴さんが、言いにくそうに言葉を放つ。


「どうしたの?」


その表情を見ると俺も不安になる。


「笹鈴、こういう時ははっきり言った方がいい」


座来栖君が、ため息交じりに答える。


「あのね、亜金ちゃ。
 私、城を出なくちゃいけなくなったの」


笹鈴が、申し訳なさそうに言う。


「え?
 どうして?」

「母が、あんな感じだったでしょ?
 だから、その娘の私がずっと城に残るわけにはいかないの」

「そんな……」

「本当なら、絞首刑とかギロチンとかの可能性もあったんだよ?
 でも、街の人がそれは許してくれたの……
 今度、選挙が行われて、別の人が王様になるの」

「そっか……」


寂しい感じがした。


「でね、今日、もうこの街を出なくちゃいけないの。
 だから、亜金ちゃとは今日でお別れ……」

「そんな!」


俺は、泣きたくなった。


「短い間だったけど亜金ちゃとの思い出は大事にするね」


笹鈴さんが、笑う。


「そう言う訳だ、亜金、元気でな」


座来栖君が、ニッコリと笑う。


「座来栖君は、笹鈴さんと一緒に旅をするの?」

「ああ。
 俺は、笹鈴に忠義を誓ったからな。
 笹鈴に婿が見つかるまでずっと傍にいる」

「そっか……」


その関係が、少し羨ましく感じた。
俺には、そういう人って誰もいなかったから……
笹鈴さんと座来栖君は、暫く俺と雑談してくれたあと、館を出て街を出た。
また逢える時が来るといいな……

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ピノの旅(小説) [ピノの旅]

――4月2日


俺は、一日悩んだ。
笹鈴さんと座来栖君は、城に帰った。
俺とピノは館の中で外を眺めている。


「あのお空から降って来るお水は何?」


ピノは、そう言って雨を指さした。


「あれは、“雨”と言うんだよ」

「雨?
 雨って、どうして空から降って来るの?」

「えっと……」


俺は、回答に困った。
俺も詳しい理由は、知らない。
雨は、次第に激しくなり雷が鳴る。


「あのピカピカゴロゴロはなに?」

「あれは、雷だよ」

「へぇー」


ピノは、雷を真剣な眼差しで見る。
そっか、ピノは、雨も雪も雷も知らないんだ……


「ピノは、雪を見たい?」

「雪、見れるの?」


ピノは、振り返り俺の方を見る。


「うん!
 ピノ、雪みたい!」

「そっか……」


プレゲトンが、部屋の中に入って来る。


「紅茶を持ってきたぞ」


プレゲトンが、そう言って机の上に紅茶を置く。
ピノは、興味津々で、その紅茶を見る。


「これは、何?」

「紅茶だよ」


俺が、そう言うとピノは静かに紅茶を見つめる。
プレゲトンが、紅茶を飲むとその仕草を真似してピノも紅茶をぐぐっと口の中に流し込む。


「あつーい」


ピノは、舌をペロッと出して涙を流す。


「プレゲトン……
 俺、旅に出たい」

「まだそんなことを言ってるのか?」

「ピノに色んな世界を見せたいんだ……
 雪も雨も雷も知らないんだ……
 ピノに色んなモノを見せてあげたい」

「そうか……」


プレゲトンが、そう言うと窓の外を見る。


「初めてだな。
 亜金が、誰かのために何かをしてやりたいなんて言ったのは……
 わかった。私からも清空や白銀に頼んでみよう」


プレゲトンは、そう言ってニッコリとほほ笑んだ。
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ピノの旅(小説) [ピノの旅]

――4月1日


氷の女王が、いなくなり。
雪の町と言われていた町は、本来の名前である桜の見える丘の町と呼ばれるようになり町人の皆は、久しぶりの花見を楽しんだ。
だけど、俺の頭の中には、それ以上に気になることがあった。

中川圭。

勇者がどうしてこの町に?

俺の謎は深まるばかりだ……


「さて、亜金。
 お前は、どうするのだ?」


清空さんが、そう言って俺の目を見る。


「どうするって?」

「ピノの存在が、外の世界にもばれた以上、この館にはずっとは、入れないぞ?
 下手をすれば、戦争になる」

「そうだね……
 笹鈴さんや座来栖君は、どうするの?」


俺は、話を笹鈴さんと座来栖君に尋ねた。


「私は、お母様を探す旅に出るわ。
 この国には、私の居場所なんてないしね」


笹鈴さんが、そう答えると座来栖君は頷く。


「俺は、笹鈴の護衛をする」

「そっか……
 じゃ、俺もそれに同行を……」


俺が、そこまで言いかけた時、白銀さんが大きな声を出す。


「ダメだ!
 今の君では、座来栖君たちの足手まといになるだろう……
 それに笹鈴さんたちの邪魔になるのは目に見えている」


白銀さんの目が、少し冷たい。


「それに、旅には目的があった方が楽しいぞ?」

「目的って言ってもな……」


俺が、そんなことを言っているとピノが、俺のそばに近づいてくる。


「あきーん。
 これ、雪ー?」


ピノが、持っていたのは桜だった。


「違うよ、ピノ。
 これは、桜って言うんだ」

「ピノ、雪が見たい……」

「えー。
 さっきまで見てたじゃないか……」


俺が、そう言うと笹鈴さんが口を開く。


「あれは、魔力で作った人工雪だからね。
 本物はもっと綺麗なんだよ」


笹鈴は、そう言ってピノの頭を撫でる。
ピノの無邪気な笑顔が、心をチクチクと指す。
ピノは、あと生きれても半年……
俺は、決断の時を迫られていた。

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ピノの旅(小説) [ピノの旅]

――3月31日


「あ、あいつは……」


座来栖君が、驚きの声を上げる。
俺は、こいつを知っている。
こいつが、現れてしばらくしてから俺は、あの館に幽閉されるようになった。
そう、全ての始まりはこいつだった。

名前は、中川 圭。
数々の神族と魔族を滅ぼした男。


「水さん、ここは一旦引きませんか?」


中川は、そう言ってニッコリとほほ笑む。


「私に、この城を放棄しろと?
 これまで得た地位も名誉も全て捨てろと?」


水の声が、震えている。


「もう一度言います。
 ここは、一旦引きましょう。
 王は、笹鈴さんたちの死を望んではいません」

「く……」


水が舌打ちをする。
そして、武器を収めた。


「理解頂けて幸いです。
 王もお喜びになるでしょう」


中川は、そう言って笑うとEDを召喚した。
白い騎士の中川。

俺は、直感的に理解した。
中川のEDの強さは、今の自分が、束になっても勝てないことを……
それは、俺だけじゃない笹鈴さんや座来栖君も同じだった。


「ふふふふ……
 命拾いしまいたね。
 王が、笹鈴姫と亜金さんの死を望んでいたら……
 この場で、僕が貴方たちを殺していたでしょう」


中川は、そう言うとウェンディーネの肩に触れる。


「覚えておるがいい。
 笹鈴、次に会うときは、お前を殺す時だ!


水が、そう言うと中川は呪文を唱えると姿を消した、
空間転送魔法なのだろう。


「みんな無事か!」


清空さんと白銀さんにシエラさんが、俺たちが居た部屋にEDの状態で入って来る。


「今回は、引いてくれたよ……」


俺が、そう言うと全身の力が抜けた。


「今の巨大な魔力……
 誰だったんだい?」


白銀さんが尋ねる。
俺たちは、事情を説明した。
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